「人の三井」を可視化する
「人の三井」と呼ばれる三井物産様において、人材はどのように事業価値の向上を支えているのか。今回のインタビューでは、「人が全て」という人への考え方を起点に、人材育成、ミドルゲーム、Bloomによる人材活用、今後の人事施策の方向性についてお話を伺いました。
・インタビュイー:三井物産株式会社(以下、三井物産)代表取締役常務執行役員、CHRO、CCO 稲室昌也様
・インタビュアー:HCプロデュース(以下、HCPro) 代表取締役 保坂、ビジネスプロデューサー 奥村
認証取得の背景:「人が全て」―事業を動かし、成長させるのは人
保坂(HCPro):
かねてより「人の三井」と呼ばれてきました。改めて、経営において人材をどのように位置付けていますか?
稲室(三井物産):
当社にとって、「人が全て」という考え方は大前提です。事業の成長と人的資本は密接に結びついており、経営戦略と人材戦略を切り離して考えることはできません。投資家も、事業の成長性だけではなく、「その事業を実行できる人材がいるのか」という点まで見ていると感じています。
ISO 30414の認証取得の背景には、この暗黙知として認識されていた「人の三井」を形式知化するための取組みという意味合いがありました。
三井物産は多様な事業を展開しているため、求める人材にも一つの決まった型があるわけではありません。環境の変化に柔軟に対応し、仲間と共に目の前の壁を自ら乗り越えられる人材を育てることが重要です。
そのため、人材育成においてOJTは不可欠です。座学だけではなく、実際の仕事の中で困難な課題に向き合い、自分で乗り越える経験が人を育てます。その根底には、「何のために取り組むのか」という高い志が必要であり、一人ひとりが自ら成長機会をつかみ、能動的に動ける組織を目指しています。
奥村(HCPro):
認証取得して良かったことはなんでしょうか。
稲室様(三井物産):
まず、無形資産の評価はかねてからの経営課題でしたが、認証取得によって、人的資本に対する説明力・データの信頼性・社内の人材マネジメントの高度化に波及したことだと考えています。
人的資本の高まりと共に投資家との対話の中でも、ISO 30414の指標や人的資本の開示について質問をいただく機会が増えたと思います。これは当社の人的資本経営の取り組みを見せる非常に良い機会に繋がっています。
加えて、人的資本レポートの中でも単なる人事施策の紹介にとどまらず、人的資本投資が 人材の成長に寄与し事業への貢献を経て企業価値の向上をもたらしていることが、ストーリー性をもって説明できるようになりました。このことは、優秀人材の確保・維持にも役立つという気づきもありました。
三井物産株式会社
代表取締役常務執行役員
CHRO、CCO
稲室 昌也

一番価値が上がり、一番人が育つ「ミドルゲーム」
保坂(HCPro):
今回、「ミドルゲーム」を経営戦略上重視しているというお話がありました。ミドルゲームとはどのようなもので、なぜ人材育成においても重要なのでしょうか。
稲室様(三井物産):
事業は、「投資して終わり」ではなく「投資してからが勝負」です。投資した事業をしっかりと育て、果実化し、その価値を高めていく必要があります。この投資から出口までの間にあるプロセスを、私たちはチェスの「中盤戦」になぞらえて「ミドルゲーム」と呼んでいます。つまり、投資後の事業を徹底的に磨き込み、事業価値・収益力を高めていく中盤戦の経営を重視しているということです。
新規案件の立ち上げ(序盤戦)や事業の出口(終盤戦)は成果が見えやすく、注目されやすい一方で、その間にあるミドルゲーム(中盤戦)での取組みは、外からは見えにくいものかもしれません。しかし、実際には最も多くの社員が関わり、顧客やパートナーとともに事業を育てながら、その価値を高めています。
人材の観点から見ても、一番人が育つのは、このミドルゲームの部分です。新しいものをつくることだけがビジネスではありません。引き続き、事業を通じ人が育つミドルゲームでの貢献に光を当て、適切な評価や人材育成につなげていきたいと考えています。
Bloomで世界中の「個」を可視化し、人材を適材適所へ
奥村(HCPro):
グローバルで稼働しているBloomについて、従来の人材データベースとの違いや、今後の活用イメージを教えてください。
稲室様(三井物産):
Bloomは、社員の経歴を登録するだけの単なるタレント・マネジメント・システムではありません。これは、社員の知識・経験・スキル・キャリア志向などをグローバルで一元化し、「誰を、どこで、どのように活かすか」をデータと共に考えるためのタレントマネジメント・プラットフォームであり、ミドルゲームとも深くつながっています。
こうした情報がグローバルに可視化されることで、「ここにこういう人がいる」「この事業を伸ばすためには、こういう人が欲しい」といった情報を、事業本部や地域を越えてつなげられるようになります。これまで接点のなかった人材と事業が結びつくことで、新たな「化学反応」が生まれることを期待しています。
今後は、Bloomに蓄積された情報とAIを掛け合わせ、事業に必要なケイパビリティを持つ人材候補を抽出する活用も進めていきます。ただし、最終的な配置には本人との丁寧な対話が欠かせません。Bloomを人材配置の答えそのものとするのではなく、人材の可能性を発見し、対話を始めるための基盤として活用していきたいと考えています。
保坂(HCPro):
経営戦略と人材戦略の連動が求められる中で、御社では、事業に必要な人材やサクセッションをどのように考えていますか。
稲室様(三井物産):
当社では、事業戦略を実行する人材について、集中的に議論する「HR Strategy Meeting」を行っています。
HR Strategy Meetingには、社長、CHRO、人事部長、事業本部長が参加します。各事業本部が描く事業の攻め筋を踏まえ、それを実現するためにどのような専門性やケイパビリティが必要なのか、必要な人材が現在どこにいるのか、今後どのように育成・配置していくのかを確認しています。
議論は、抽象的な人材像ではなく、個人名が記載されたリストをもとに行います。重要ポジションについては、現在その役割を担っている人だけでなく、「その人の後ろは誰なのか」というサクセッションまで確認します。後継者候補をどのようなポジションに配置し、どのような経験を積ませるのか、将来の登用や昇格も含めて綿密に議論しています。
事業戦略を策定しても、それを実行できる人材がいなければ実現することはできません。必要な人材、配置、育成、サクセッションまで具体化することで、初めて事業計画が完結すると考えています。

人事施策を定着させ、能動的に動ける人と組織へ
奥村(HCPro):
さまざまな人事施策を進めてきた中で、今後の課題や、目指している組織の姿について教えてください。
稲室様(三井物産):
この4~5年間で、Bloomをはじめ、さまざまな人事施策を導入してきました。制度や仕組みは、導入すればすぐに機能するものではありません。社員が制度の目的を理解し、実際に使いこなせるようになるまでには、一定の年数がかかることもあります。導入後も目的を繰り返し伝え、必要なフォローを続けながら、効果のある施策は定着・進化させ、効果が十分でない施策は見直していく必要があります。
そのため、暫くは既存施策の効果を定点観測し、成果につながっているかを検証する段階と考えています。
また、事業本部、地域、世代、国籍などの壁を越えて人材を活用していくことも、引続き加速して参ります。会社には、社員自身がまだ気づいていない可能性や、キャリアの選択肢を示す役割があります。一人ひとりが高い志を持ち、自ら困難な仕事や成長機会をつかみにいく、能動的な人の集団をつくっていきたいと考えています。
究極的には、それぞれの人事施策が人材の成長にどのような効果をもたらし事業の成長や企業価値の向上にどうつながったか、人的資本の指標と財務パフォーマンスとの相関を含め、より具体的に検証していくことが必要だと考えています。

HCPro/奥村コメント:
今回のインタビューでは、「人が全て」という考えのもと、事業の成長と人材育成を一体で捉える三井物産様の姿勢が非常に印象的でした。特に、事業を育て、価値を高めていく「ミドルゲーム」を、人が最も成長する局面として捉え、そこでの貢献に光を当てるというお話からは、人の成長を通じて事業を発展させていく考え方が伝わってまいりました。
また、Bloomによる一人ひとりの経験・強み・キャリア志向の可視化や、HR Straregy Meetingでの具体的な人材配置・後継者計画の議論など、経営戦略と人材戦略を実際の取り組みに繋げている点も特徴的でした。
導入した施策の効果を見極め、社員に定着するまで丁寧に働きかける姿勢からは、
「人の三井」をさらに進化させていこうとする意志を感じました。一人ひとりが自ら成長機会をつかみ、能動的に動ける組織づくりを通じて、人と事業の可能性をさらに広げていく三井物産様の今後の展開に注目してまいりたいと思います。

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