今年の6月にISO 30201(Human Resources Management Systems、以下HRMS)が出版されて約2カ月が経過しました。一般のメディアには殆ど取り上げられることが無いにもかかわらず、問い合わせが増えているのは、ISO 30414を始めとする人的資本経営やその開示に関連する情報にアンテナを張っている経営者や人事の方が増えているからではないかと想像しています。本日は、このHRMSの特徴とその使い道について、規格作りに関わって来た立場から考えてみたいと思います。
1. 人事の全領域をカバーする初のマネジメントシステム規格
ISO 30201の大きな特徴として、マネジメントシステム規格であるという点が挙げられます。ISO 9001(品質)、 ISO 14001(環境)、ISO 17021(情報セキュリティ)等をご存知の方は、それらと同等の位置付けで人事の領域を扱った規格とご理解頂くと良いと思いす。
ISO 30414(人的資本開示)との違いで言うと、大きく2点挙げられます。まず第一に、ISO 30201は要求事項規格(認証取得に際し完全準拠が求められる)であるのに対し、ISO 30414は推奨事項規格(一部の要求事項を除き、認証取得の際し部分準拠でも可能)という違いがあります。第二に、ISO 30201が採用、育成、評価、配置、後継者計 画、離職、人的資本開示といった人事の幅広い分野の“仕組み”を含むキャップストーン(冠石)型の規格であるのに対し、ISO 30414は人的資本開示という人事の特定分野の“指標”を扱う規格である点が挙げられます。
人事のライフサイクルを扱うという点で、大企業と中小企業ではこのHRMSの使い方が変わってくると考えています。
2. HRMSは人事制度の「教科書」
企業の大小を問わず、人事制度が重要であることに変わりはありませんが、大企業にとっては「既にあるもの」であるのに対し、中小企業にとっては「徐々に構築していくもの」という側面が強いのではないでしょうか?従業員数10人の弊社(HCPro)は小企業の典型かもしれませんが、創業後、採用を通じて徐々に人が増え、それに伴って育成、評価、福利厚生などを徐々に拡充しています。このような中小企業にとって、ISO 30201は人事制度の目指すべき1つの完成形、いわば「人事制度の教科書」の役割を果たすのではないかと思います。
大企業においては、既に様々な人事制度が導入されていると思うので、後継者計画等、まだ仕組みとして未導入のものを補完し、グローバル水準の人事制度を目指す際の「教科書」として活用する一方で、人事制度のPDCAサイクル(下図参照)をしっかり回し、精度を改善していくことに重点を置いて活用していくのが良いと考えます。

3. CHROが持つべき資格?
個人のレベルでは、ISO 30201は今後、「人事のプロ」であることを示す資格になって来ると考えられます。これまで人事領域における資格は、採用やキャリア開発といった形で細分化されており、人事部門で採用する際にも、資格より経験値を重視して来たのではないでしょうか。英国圏ではCIPD、米国圏ではHRCIやSHRMの資格が人事の採用で活用されてきました。
今後も経験値が重要である点は変わりませんが、HRCIやCIPDの関係者がISO 30201の規格作りにも携わっている点を踏まえると、人事の領域で網羅的な知識を持っていることを示す点で、ISO 30201の理解は今後グローバルな「ものさし」となり得ます。特にCHROや人事部長のような人事を幅広く所掌するポストにとっては必須の資格となってくるかもしれません。
4. サプライチェーンの取引要件にもなり得る?
周知のとおり、企業の人権問題に対する取り組みは、取引先として適切か判断する際の要件になりつつあります。海外では、投資家が、企業内部の労働力のみならず、外部労働力の把握や適切な扱いにも関心を高めています。今後、ISO 30201に従った取り組みと、ISO 30414に従った開示をしている企業とは安心して取引ができる、という時代が到来するかもしれません。



