・インタビュイー:大阪市高速電気軌道株式会社:常勤取締役 コーポレート 管理担当 植村満様
・インタビュアー:HCプロデュース(以下、HCPro) 代表取締役 保坂、ビジネスプロデューサー 奥村
大阪市高速電気軌道株式会社様(以下:大阪メトロ様)は、2025年大阪・関西万博において、多くの来場者の移動を支える重要な役割を担われました。今回のインタビューでは、万博対応を通じて得られた全社一丸の経験や人材育成への効果、今後の新規事業・後継者計画に向けた取り組み、そしてISO 30414組織認証を取得したことによるメリットについてお伺いしました。
【大阪・関西万博という大きな節目を、全社一丸で乗り越えた一年】
HCPro/保坂:
2025年度は大阪・関西万博という大きな節目がありました。万博対応によって、人的資本経営の位置付けや取り組みに変化はありましたか。
植村様:
大阪・関西万博という国家的大規模イベントの開催にあたり、当社は万博会場(夢洲駅)へ直接乗り入れる唯一の鉄道路線を担う企業として、来場者輸送において極めて重要な役割を果たしました。
この歴史的使命を全うするため、2025年1月には夢洲駅を開業させ、万博期間中は世界中からのお客さまをお迎えするために、運行間隔を「2分半」に短縮した運行ダイヤを設定するなど、全力を挙げて取り組みました。この前例のない大規模な輸送対応は、交通部門単独で完結するものではありません。管理部門を含めた全社が一丸となり、最高レベルの安全・安心をお客さまに提供するために奔走いたしました。
その中で、人的資本経営の観点から見ると、この万博対応は組織および社員に一時的な高負荷をかけることが見込まれるものでした。当社が以前から最重要テーマの一つとして掲げている「労働生産性の向上」については、この万博対応に向け、前もって対策を行い、「これまでのやり方を根本から振り返り、増加する業務量に如何に対応するかを考える意識改革」を全社的に推進してきました。その結果、2025年度においては、組織全体で約61万時間の労働時間削減という非常に大きな成果を挙げることができました。また、開催期間中において、一部で運行障害はあったものの、重大事故ゼロ、かつ社員の労働災害ゼロで完遂できたことは、当社の強固な安全文化と高い安全意識の結晶であり、最大の成果であったと確信しています。
大阪市高速電気軌道株式会社
常務取締役
・コーポレート(管理)担当
・生活支援サービス事業担当
・生活支援サービス事業本部長
植村 満

【万博対応で見えた、部門横断の力と組織作りの課題】
HCPro/奥村:
万博対応では、交通事業本部だけでなく、他部門も含めた全社的な取り組みが行われたとのことですが、この経験を今後の人材育成にどうつなげていきたいですか。
植村様:
万博対応を通じて証明された「部門を超えたシナジー」は、今後の当社にとって大きな財産となります。一方で、これを一過性の成果で終わらせず、持続的な人材育成へと昇華させるためには、まだ組織的な課題があると考えています。
現在、当社ではジョブ・ディスクリプション(JD)の高度化による役割・職責の明確化を進めており、個人ごとにKGI(最終目標)やKPI(プロセス指標)を設定し、「いつまでに、どのような役割を果たし、どう目標を達成するのか」の管理を徹底しています。併せて、能力開発のための研修時間の拡充や、上司との対話を通じて個人の成長に伴走する1on1ミーティングなどの施策を積極的に導入してきました。
しかし、率直に申し上げれば、まだこれらの人事施策は点在化しており、「これらすべてが体系的な人材育成のストーリーとして繋がっている」という認識が、社内に完全に浸透しきれていない面があります。
すべての人事施策の根底にある真の目的は、「人材育成(経営視点を持つ人材の輩出)」と「組織力の最大化」に他なりません。今後はこれらを点在化させず、「人材育成・キャリア開発」という一つの大きな人材戦略のもとで結合させていきます。そして、人材育成を「経営戦略」と「現場の実行力」をつなぐ「あらゆる取り組みの結節点」として定着させていくことが、まさに当社の持続的な成長に向けた最重要課題であると考えています。

【各指標の活用方法について】
HCPro/保坂:
様々な指標についてKPIを設定している点が、御社の人的資本レポートの特徴だと思いますが、その背景とそれをどう活用していくのかについて教えていただけますか。
植村様:
例年、この人的資本レポートを策定する時期と、当社の「事業計画」の策定時期は重なっています。私自身が常に意識しているのは、「事業計画の達成と人的資本レポートの取り組みは完全に連動させなければならない」ということです。
当社が人的資本に関する様々な指標にKPIを設定しているのは、これらを単なる「外部開示のための非財務データ」として捉えていないためです。
私たちはこれらの指標を、「ヒトの成長」、ひいては「組織の成長」に向けた重要な「経営管理指標」として位置づけています。
KPIを明示することで、各種施策の目的と進捗が可視化され、組織全体でデータに基づいた継続的改善が可能となります。また、人的資本レポートは投資家やステークホルダーの皆さまだけでなく、当社の社員に対する重要なメッセージでもあります。自社の人材投資や職場環境の整備がどこまで進み、どこに課題があるのかを社員へリアルタイムに共有することで、組織への信頼と変革へのコミットメントが高まると考えています。

【新規事業を見据えた取組みについて】
HCPro/奥村:
将来的な人口減少や外部環境の変化を見据え、新規事業に必要な人材育成や採用について、どのように考えていますか。
植村様:
生産年齢人口の減少やリモートワークの定着といった構造変化に伴い、運輸収入の減少は避けられない未来です。この厳しい環境下において、当社が持続的な成長を遂げるためには、基盤である鉄道・バスといった既存交通事業の安全かつ強固な維持・発展は大前提としつつ、「2035年のありたい姿(長期ビジョン)」を見据えた、新たな事業や付加価値サービスの創出が不可欠です。
現在、複数の新規事業に果敢にチャレンジしていますが、事業化へのリードタイムの短縮、専門人材の不足、イノベーションを加速させる組織風土改革など、解決すべき課題は少なくありません。
当社のアプローチの特徴は、単発で新規事業を立ち上げるのではなく、「都市型MaaS構想(e METRO)」という全体戦略に基づいている点です。
鉄道・バスだけでカバーしきれないラストワンマイルをオンデマンドバスが担い、さらに網羅しきれない交通空白地帯をタクシーや新たなモビリティが補完することで、既存の移動インフラとシームレスに融合し、お客さまの利便性を最大限高める移動サービスの提供、そしてそこから派生する「生活・まちづくり事業」を展開することに本質的な価値があります。この壮大なビジョンを実行するためには、当社の全体戦略の本質を理解した上で、ゼロから事業を構想し、具現化できる「変革型人材」の獲得と育成が急務です。
採用戦略においては、新卒採用だけに依存せず、第二新卒や経験者採用(キャリア採用)を中心とした外部人材の戦略的確保についても加速させており、特定の専門領域(DX・事業開発など)を牽引できる中堅・経営幹部層の外部登用も推進しています。
また、当社では、まもなく大きな人員構成の転換期が訪れます。現在の年齢構成は50歳代・60歳代のベテラン層が多く、30歳代・40歳代の中間世代が非常に少ないという歪なバランス(人員構成のギャップ)を抱えており、今後、定年による大量退職期を迎えます。そのため、外部から中間世代を補強するとともに、70歳までの雇用延長も見据えた取り組みによって、確実な「技術継承」を進めていく必要があります。
後継者計画についても今後の経営体制を見据えると、最低でも10人程度は次世代の経営人材候補が必要だと考えています。そこで、部長クラスを中心に、技術系・総合職を含めて候補者を選定し、すでに育成の取り組みを始めています。
私たち自身も含めて、今の経営層だけでは将来を支え続けることはできないですし、次の世代が自分たちで考え、責任を引き受けていかなければなりません。そのためには、勉強し続けることも必要ですし、厳しいことを言う覚悟、責任を問われる覚悟も必要です。誰かが何かをやってくれるのを待つのではなく、自分で課題を見つけ、自分で動くことが求められます。
「大阪メトロビジネスカレッジ」という研修センターも新たに設立し、社内研修だけでなく、外部の方の話を聞く機会、経営者としての意識を持ってもらうための研修も実施しており、外部の経営者にも協力いただき、あえて厳しい視点から問いかけてもらうような場も作っています。
同時に、社内の意欲ある若手社員に対しても、社内公募やプロジェクトへの抜擢を通じて、新規事業の立ち上げに挑戦する機会を豊富に用意していきたいと考えています。2035年のありたい姿に向けて、当社の持続性を支える「既存事業の深化」を担う人材と、「新規事業の探索」を牽引する人材、この両輪が機能する最適な「人材ポートフォリオ」を構築しなければなりません。
これらの考え方をもとに、すべての人的資本施策(採用・育成・評価・配置・報酬・エンゲージメント)を有機的に連動させ、心理的安全性を醸成し、能動的な働き方を促進することで、「ヒト」と「組織」の成長をさらに加速させてまいります。
HCPro/保坂:
ISO 30414の認証を取得して、どのようなメリットを感じていますか?
また、これから認証取得を目指す企業へのメッセージをお願いします。

植村様:
取得して良かったと感じています。特に採用面では、新卒・中途を問わず、候補者の方が人的資本レポートを見てくださっていることも多いです。
評価いただいているのは、良い数字だけでなく、悪い数字も含めて開示している点です。例えば、社内公募制度の応募者数が非常に少ないことなど、必ずしも良いとは言えない数字も載せています。しかし、それも含めて当社の実態です。会社の状況をきちんと見ていただくことで、候補者の方にも理解してもらいやすくなったと感じています。
社員に対しても、会社がこれからどのような方向に進んでいくのかを示す資料になっています。人的資本レポートを通じて、会社の人材戦略や取り組みを可視化することは、社員の安心感にもつながっていると思います。また、株主からも透明性があるという評価をいただいています。
ISO 30414認証を取得することで、自社の人的資本に関する取り組みや課題を客観的に整理することができます。良い面だけではなく、課題も含めて開示することで、採用候補者、社員、株主など、さまざまなステークホルダーに対して透明性を示すことができます。
当社としても、認証取得によって採用面での効果や社員への安心感、株主からの評価など、さまざまなメリットを感じています。
認証取得を通じて、自社の現在地を見つめ直し、これからどのような会社にしていくのかを考える機会にしていただければと思います。
HCPro/奥村コメント:
今回のインタビューでは、万博対応という大規模プロジェクトを通じて得られた経験が、全社一丸の組織づくりや人材育成に確実につながっていることが印象的でした。
また、新規事業、後継者計画といった今後のテーマにおいても、人的資本をどのように活かし、次世代の経営人材をどのように育てていくかという視点が一貫して語られ、ISO 30414組織認証についても、自社の強みだけでなく課題も含めて可視化し、社内外に透明性を持って発信する取り組みとして活用されており、変化を前向きに捉え、進化し続ける大阪メトロ様の姿勢に、今後のさらなる成長への期待を強く感じました。
インタビュー一覧はこちら
認証企業インタビュー|株式会社HCプロデュース




