投資家に向けて、グローバル・ベストプラクティスに基づく指標について、網羅的かつ比較可能な人的資本の情報を開示できる
INTRODUCTION
活用メリットおよび、世界の潮流
網羅性と利便性の高い国際的なフレームワークとして、国内外の企業によるISO 30414の認証取得や活用が始まっています。2021年1月、ドイツ銀行グループのアセットマネジメント会社で、7590億ユーロ(約100兆円)の運用資産をもつDWSが、世界で初めてISO 30414の認証を取得。次いで同年3月に、ドイツ銀行も人的資本の情報開示に特化したHuman Capital Report 2020の評価を受け、ISO 30414の認証を取得しました。
2020年に証券取引委員会(SEC)によるルール改定が行われた米国でも、人的資本の情報開示が進んでいます。新ルールが発効した2020年11月9日以降、SECへのレポートを行った米上場企業のうち、売上額上位300社については、すべてレポートの中で人的資本に関する記述を拡充もしくは追加。平均すると、ルール化前の人的資本に関する記述は270単語であったのに対し、ルール化後は820単語と3倍に増加。新たに増えた項目には、ダイバーシティ、組織風土、安全・健康・幸福、スキル・能力、後継者計画など、ISO 30414との重複が目立ちます。
このような中で日本企業は、まずはISO 30414を“うまく利用する”ことだと考えます。そもそも人的資本の情報開示は、企業の中長期的な成長を目的としており、四半期や単年といった短期の結果を求める視点とは異なります。これは従来日本企業が得意としてきた、”人の育成を通じて事業の成長を実現する”という、長期的視点に立った経営の考え方と非常に親和性が高いのです。
MERIT
投資家に向けて、グローバル・ベストプラクティスに基づく指標について、網羅的かつ比較可能な人的資本の情報を開示できる
求職者に向けて、自社の社風、人材育成の投資、成長機会等を伝え、採用ブランディングを強化できる
ISO 30414認証取得をきっかけとして、人的資本経営の強化を図ることができる
人事施策を定量化し、改善に結びつけるための指標を提供してくれる
INTRODUCTION ISO 30414
ISO 30414は、11の項目と58の指標で構成され、指標の多くに数値を算出するための計算式が含まれます。すべての指標について対外的に開示することを推奨しているわけではなく、大企業と中小企業という分類に加え、社内にレポートするのがよいか、対外的に開示するのがよいかという分類がされています。
コンプライアンス、ダイバーシティ、健康・安全などは日本企業にも比較的なじみのある概念です。これらにはたとえば、倫理規定違反の件数、女性従業員の比率、労災の件数などが含まれ、すでにサステナビリティの観点から多くの企業がデータとしても把握し、開示している内容です。一方、労働力コスト、生産性、採用社員の質、後継者計画などは、言葉としてはよく耳にするものの、定量的に把握していること自体日本ではまだまだ少なく、開示となると希なケースが多いです。
このように、投資家や求職者を始めとする外部のステークホルダーの関心が高い指標を網羅的にカバーしていることがISO 30414の特徴であり、多くの企業が活用し始めている理由の1つです。
ISO 30414は人事施策を定量化し、改善に結びつけるための指標を提供してくれます。まずは、自社の人的資本について、何が分かっていて、何が分かっていないか把握することから始めることを推奨します。その際、ISO 30414の指標を活用することで、既にあるデータとそうでないものが判別できます。その上で、できるところから開示を進めていくと良いです。
なお、データを取得できることと、それを開示するか否か、もしくはどう開示するかは別の議論です。開示する際には、単に数値を列挙するのではなく、自社の経営戦略を踏まえた人事戦略のストーリーとして「意思のある数値」を開示することが望ましいです。
経営者も、自社が他社と比べてどれ程人的資本に投資できているかやどれ程生産性が高いか(低いか)について、これまでは定量的なものさしをもっていなかったのではないでしょうか。
ISO 30414の活用により、これらが可視化でき、比較できるようになります。また、自身の後継者を含む「重要ポスト」の後継者が育成できているかについて、即時、1~3年、4~5年という時間軸で把握できることも大きな安心材料になります。