~人的資本データの可視化を通じた“思い込み”の排除~
・インタビュイー:
コンクリートコーリング株式会社 藤尾代表取締役社長、中元経営統括室長
株式会社HCプロデュース ビジネスプロデューサー 池田
・インタビュアー:

株式会社HCプロデュース 代表取締役 保坂
2025年2月、コンクリートコーリング株式会社が建設業の中小企業で初めてとなるISO 30414の認証を取得し、「People Fact Book 2025」を発行。
過去3年間の人的資本に関するデータを体系的に整理し、認証取得に至った経緯や今後の展望について、藤尾社長及びプロジェクト推進を担った中元室長に話を伺った。
【ISO 30414認証取得の背景】
保坂(HCPro):
ISO 30414認証を目指された背景について、お聞かせください。
藤尾社長(コンクリートコーリング):
当社は2022年9月に人的資本経営に積極的に取り組むことを宣言し、2023年から人的資本の情報開示を行ってきました。その理由は、建設業に間違いなく必要な概念である“人”の活用において、自社基準を設けたいという思いがありました。自社の現状把握のために取得したデータに基づき、根拠のある経営を行いたいと思ったことがきっかけです。
そのうえで今回ISO 30414認証の取得を目指したのは、自社基準ではなく国際基準に照らして社内体制をレベルアップさせようと考えたからです。
認証を取得することで、対外的なブランディングにもなりますし、結果として経営戦略や当社の“Dream”を社内へより浸透させることができるのではないかと考えました。
また、当社のお客様でもある大阪メトロ様が運輸業で世界初、認証を取得されたということにも刺激を受けました。
コンクリートコーリング株式会社(西日本) 代表取締役社長 藤尾浩太
大学卒業後、ニュージーランドのオークランドへ留学。帰国後、建設資材関連の専門商社にて営業を担当。’98年、コンクリートコーリング株式会社へ入社。工事部門においてコンクリート撤去・除去の現場を経験後、営業部門を経て2012年より現職。

【ISO 30414認証取得に向けた取り組み】
保坂(HCPro):
認証取得に向けて、どのような取り組みを行われましたか?
中元氏(コンクリートコーリング):
藤尾の話にもあるように、我々は2023年から2年連続でISO 30414をガイドラインとして、人的資本に関する情報開示をPeople Fact Bookを通じて実施してきました。年に一度の開示を重ねるたびに自社の成長を実感してきましたが、今回の認証取得に向けてより一層質の高い開示にレベルアップできたことを実感しています。
人的資本の情報開示においては、「経営戦略と人材戦略の連動」が重要です。当社では、中長期的な経営戦略として「ロボットと機械化施工を大きな軸に、安全で革命的な工法を生み出す業界のパイオニアになる」というDreamを掲げています。このDreamを実現するために必要な人材や教育、職場環境とは何か、各種データを整理してレポートにまとめました。

コンクリートコーリング株式会社(西日本) 経営統括室長 中元美緒
劇団員、Webデザイナーを経て、2013年に入社。
組織変革のリーダーとして、採用・人事・経理・経営企画などの管理部門にとどまらず、産学連携による女性活躍のための新工法開発にも注力。
さらに、より働きがいのある職場を目指し2023年からISO 30414をガイドラインとした人的資本の情報開示を主導。
私たちがこのレポートを最も届けたいと考えているのは、求職者とその親御さん、そして現在働く社員です。「こんな会社で働いてみたい」と思っていただけるよう、当社が最優先にしている“心理的安全性”について、取り組み内容とその効果を裏付けるデータを開示しています。情報の開示にあたっては、求職者ご本人だけでなく、ご家族の皆様にも安心していただける内容を心がけました。
また、ISO 30414のフレームワークを活用することで、根拠に基づいたKPIの策定が可能になった点も大きな成果でした。データと経営戦略を結びつけたことで、会社の“目指す姿”をより明確に描くことができ、単なる理想にとどまらず、実行可能な目標へと落とし込めたと感じています。たとえば「後継者準備率」については、データに基づいてKPIを設定したことで、スキルマップの作成など具体的な施策へとつなげる根拠が得られました。
認証取得にあたっては、各指標における責任体制の明確化、ベンチマークの設定、データの収集および計算方法の整備が必要でした。その過程で、管理職を対象とした人的資本経営に関するセミナーの実施や、リーダーシップ開発、エンゲージメント向上のためのシステム導入など、新たな取り組みもスタートしています。
ISO 30414の認証を継続的に得るためには、経年での努力も審査対象となります。今後も一過性の施策で終わることなく、データドリブンな人的資本経営を継続し、さらなる価値創出に取り組んでまいります。
【審査に向けたデータ取得で得た気づき】
保坂(HCPro):
人的資本のデータ取得や可視化を通じて新たな気づきはありましたか?
中元氏(コンクリートコーリング):
認証を取得するために必要な経年でのデータ取得により、“思い込み”による誤った意思決定を修正できることには驚きがありました。
特に、離職率・生産性・労働力コストに関するデータには新たな気付きもありました。
まず、離職率の推移を経年で把握することで、計画に対しての施策を見直すことができました。具体的には、当社の年間離職率がおよそ8%であると把握できたことで、「定年退職者を含めて、誰も辞めない年はない」と認識を改め、退職者と相殺されてしまっていた採用人数8名の目標を、現在は目標を16名に増やし人員純増を見据えています。当初は経営から採用人数の倍増に対して抵抗感が示されていたものの、離職率のデータに基づいた根拠のある説明を行えたことで、採用計画を適正化できた点は大きな成果です。
2点目は生産性についてです。私が入社した2013年当時、「働き方が昭和初期で時が止まったような」印象を持っており、生産性が低いのではないかと先入観を抱いておりました。ところが、実際に従業員1人当たりのEBITを算出・分析したところ、数値は決して低水準ではなく堅実な結果であり、悲観的な見方に過ぎなかったことに気づかされました。この経験を通じて、データに基づく客観的な状況把握の重要性を改めて認識するきっかけとなりました。
最後に、総労働力コスト※1についても、全社的な人事関連のデータを取得・集約することで、自社が世間および業界内でどのような立ち位置にあるのかを知ることができました。他社との比較をオープンに行えるようになったことで、従業員や求職者に対しても、より透明性の高い情報提供が可能となっています。
また、人事周りのデータを一元管理し、社内外に開示することで、すべての社員が同じデータを基に“思い込み”をなくした対話ができるようになった点も大きな成果だと感じています。
※1 総労働力コスト=組織が労働力を維持・開発する上でカギとなる、労働力の財務価値を測る指標
【審査を通じて見えてきたコンクリートコーリングの強み】
保坂(HCPro):
審査を通じて、どのような強みや課題が見えてきましたか?
池田(HCPro):
コンクリートコーリング様は、伝統的に守ってきた厳格な現場管理と技術を継承し、安全かつ高いクオリティを求め続ける姿勢に大きな強みがあります。その背景に、厳しくも温かい経営陣の指導のもと、若手も誇りを持って仕事ができる環境づくりへの工夫が随所に見られました。
一方で、経営が求める“自ら考え行動できる人材”の育成に関しては、人材開発部の新設などを通じて取り組みをスタートさせた創成期にあります。取得した人的資本データを駆使し、チャレンジングなビジョンである“ロボット活用”を実現するための主導者が、次々と輩出されることを期待しています。

HCプロデュース ビジネスプロデューサー 池田 裕貴
沖電気工業からHCプロデュースに参画。ISO 30414審査や人的資本強化のコンサルティングに従事。
【ISO 30414認証取得後の変化と展望】
保坂(HCPro):
認証取得によって、社内外に何か変化はありましたか?
中元氏(コンクリートコーリング):
認証を取得してからまだ日が浅いため、対外的な変化はこれから徐々に現れてくる段階だと思います。一方で、社内ではすでにポジティブな反応が生まれており、名刺に認証ロゴが加わったことで誇りを感じることや、「いい会社で働いている」と実感する社員の声が聞かれるようになりました。
また、求職者の方々からも変化が見られており、最近では面接時にISO 30414に関するご質問を受ける機会が増えています。さらに、内定を出した際には、親御さんから「良さそうな会社ですね」といった前向きな反応をいただくこともあり、私たちが意図していた効果が着実に表れてきていると実感しています。
当社は、認証取得以前から人的資本経営コンソーシアムに参画しており、2025年5月から11月にかけて、日本企業における人的資本経営の定着とさらなる深化を目指す「実践プログラム」への参加を予定しています。本プログラムで、先進企業の取り組み事例や実務知見を学ぶことで、当社における人的資本経営をさらに発展・進化させていきたいと考えています。
藤尾社長(コンクリートコーリング):
今後は、ISO 30414を活用し、従来の建設業のイメージを変革する取り組みを加速し、社員とその家族の幸福を実現しながら、社会に貢献する企業を目指していきます。

【池田(HCPro)からのコメント】
審査では、徹底した安全管理と新しい技術を融合させ、難易度の高い現場においても社内外問わず継続した信頼関係を築いて遂行していることがわかりました。特に若手の社員の方々は、社会貢献性の高い仕事に誇りを持ち、前向きに邁進する姿が印象的でした。明るく清潔な社屋や健康に配慮した社食の提供など、従来の建設業のイメージとは異なる、社員の働きやすさに配慮した環境づくりへの積極的な投資もされていました。このように、全社一丸となり実践している人的資本経営は、ISO 30414の認証取得のみならず、様々な功績に寄与していると感じています。今後も、建設業における人的資本経営および安全で革新的な工法を生み出すパイオニアとして、同社がさらなる飛躍を遂げられることを期待しております。
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