サステイナブルな企業経営において、改めてコーポレート・ガバナンスの在り方が重要視されています。投資家も、企業の長期的な価値向上に向けた取り組みを重視し、その際重要となる人的資本の情報公開に注目し始めています。
そこで、国際的に注目されつつある人的資本マネジメントの国際規格「ISO 30414」について、同規格の策定メンバーであるHR Metrics CEOザヒッド・ムバリク氏と、日本国内初のISO 30414のコンサルティング資格を保有する保坂駿介による対談を実施いたしました。
– 「そもそも規格とはどのようなものですか?」
〈ザヒッド〉:
一般的に規格とは、物質や製品、あるいはプロセスやサービスが、目的に合う形で一貫して使えるよう、要求や性能、ガイドライン等を定めた文書です。ISOの人事に関する規格は、様々な組織やその従業員のために、世界中で異なる人事実務が調和するよう、人事担当者に幅広いガイダンスを提供します。これらの規格は、人的資本を取り扱う上で、最低限必要となる手法や測定指標を特定しています。
– 「その中で、ISO 30414とはどのようなものですか?」
〈ザヒッド〉:
ISO 30414は、あらゆる種類・大きさの組織が、その従業員に関する人的資本の情報について、定量化し分析するための国際的な指標として設けられた、ボランタリーな(=義務化されていない)ガイドラインです。世界中のエキスパートにより作られ、11の項目の中に58の指標を含みます。
– 「なぜ、人的資本に関する情報開示が求められているのですか?」
〈ザヒッド〉:
「人材が組織の最大の資産である」とよく言われますが、他の資産に比べ、従業員の構成やその持ち得る影響力に関する情報は殆ど株主に開示されていません。時にコストの6-7割を占める人的資本について正しく把握・分析できないと、投資家は組織が発揮し得る能力を理解することができないのです。
例えば、新規に外部から採用した人材が組織にもたらす価値や、既存の従業員が創出する価値について定量的な開示がなされない結果、良い採用や適材適所の人材配置が出来ていても、正しく認識できないでいます。
– 「なぜISO 30414のサービスを始めたのですか?」
〈保坂〉:
近い将来、個人や組織の“戦闘能力”が可視化される時代が来るのではないかと考えています。不気味に聞こえるかもしれませんが、個人に関しては既に近い状態にあります。例えば、あなたのスマホは、あなたがいつどこで生まれ、どんな教育を受け、誰と結婚し、どれだけの収入を得て、誰と親しいか知っていますよね?
組織に関しては、“人、物、金”のうち、モノとカネといった有形資産については既に可視化されており、投資家は今、人的資本を始めとする無形資産に注目しています。ドリームインキュベータは、日本企業がこうした動きに対して、能動的かつ戦略的に取り組めるようご支援したいと考えています。
我々は長年、企業のリーダー育成を支援して参りましたが、その過程で、日本企業がどれ程人材を大切にし、投資しているかを見て来ました。ISO 30414を知った時、これは日本企業が上手く活用すべきツールだと思いました。ただ、規格自体は欧米の労働慣行を前提に作られているため、ある程度の“日本化”が必要だと考えており、その上での導入をご支援したいと考えています。
– 「 企業にとってISO 30414を導入するメリットは何ですか?」
〈ザヒッド〉:
メリットは、立場に応じて様々です。経営者は、ようやく自社の人材という無形資産の価値を測る手段を手に入れることが出来ます。人事の透明化により、組織のレピュテーション強化、従業員モラルの向上、離職率の低下、労災の削減、品質の向上、ROIの改善などが期待され、顧客や投資家の信頼が向上します。
人事部は、ISO 30414の導入により、セクターや業界横断で人事関連のコストが比較可能になる結果、効率的な人材マネジメントが可能となり、不要なコストを削減することが出来ます。
従業員の待遇や仕事に対する期待は、関係者により良くに理解されるようになり、組織内で異動した場合でも蓄積されたスキルや能力が発揮できるようになります。また、自身の能力を向上させることにより、境界を越えてより良いポジションを目指せるようになります。
また、この規格が導入されるようになると、労働市場も活性化されます。労働者の能力が適時適切に把握されると、バーチャルかつ柔軟な勤務形態も可能となり、“労働力の取引市場”が形成されて来ると考えます。
〈保坂〉:
日本企業にとり、ISO 30414は組織や人事制度を変革するための拠り所にもなり得ます。実際、多くのお客様から「こういうのを待っていた!」とか「これで会社の中の変革を推進できる」といった声をお聞きしています。
– HR MetricsとHCProはグローバル・パートナーとなりました。どのように協業するのですか?
〈保坂〉:
ザヒッドの指導を受け、我々は日本初のISO 30414コンサルタントになりました。とはいえ、彼の知見を借りるべき点がまだたくさんあります。特に、グローバルな観点から、人事実務のベストプラクティスや規格の解釈についてアドバイスを頂きつつ、日本企業に適切な支援を提供していきたいと考えています。
〈ザヒッド〉:
保坂さんには、ISO 30414を策定したエキスパートのコミュニティにも参加いただいたので、日本企業はDIを通じて世界中の知見にアクセス可能です。
後編へ続く
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